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作品情報

作者:五条紀夫
出版社:新潮文庫nex

粗筋

確かにこれは推理小説です。
凄惨な連続殺人に常人には理解できない犯行動機。あまりにも惨い事件なのは間違いありません。

それなのに本作の感想は「美しい」の一言でした。そんな異質な青春連続殺人事件の感想を話していきましょう。

殺された青年は天国に返り咲いた

その時、俺は確かに殺された。
目が覚めた時、ヒゲオはリゾートビーチに横たわっていました。

死んだはずなのに生きている。しかも殺された以外の記憶がない。
訳の分からないまま周囲を散策し、やがて西洋館にたどり着きました。

そこにいたのは5人の男女。互いに顔見知りではないようです。
話していくうちにヒゲオは恐ろしい共通点を知ります。

どうにも私たちは全員が惨殺された人間らしい。

こうして死んだ人間たちの共同生活が始まるのでした。

6人は事件の犯人と自分の正体を知るために推理する

毎朝届く謎の新聞。それには事件の内容が書かれていました。
どうもこの天国屋敷こそが殺人事件の現場であるようです。

否応なしにも想像する事件。
俺たちは誰になぜ殺されたのか。きっとそれを考えるために生かされているのだ。

探偵気取りのヒゲオを中心に各々が事件に挑むのでした。

殺された者同士に生まれる奇妙な絆

恐らく6人の中に殺人犯がいる。でも、誰もそれを恨んではいません。
生来の気質もあるのでしょうが、すでに死んだことがある種の諦めになっているようです。

若干の疑心暗鬼を生みながらも6人は確かな絆を感じるようになります。
誰が犯人でも恨みはしない。いつしかそれが彼らの共通認識になっていたのです。

トリック

「全員が死んでいる」というスケールの大きい特殊設定ミステリ。
とんでもない設定ですが、その範囲を逸脱しない絶妙な構成となっています。

死んだからこそ難解になる事件

正直、現実世界ならこれほど陳腐な事件もありません。
猟奇的ではありますが、犯行がずさんで証拠だらけなのです。

ほどなくして犯人は明らかになるでしょう。まあ、すでに死んでいるのですが。

しかし、死んだ6人はそうはいきません。何しろ犯行現場を見られないのです。
記憶もないため動機を探ることもできない。

情報を徹底的に遮断した異色の推理小説として圧倒的な面白さを演出しています。

徐々に明らかになる天国屋敷の現象から推理する

現実世界の情報は新聞のみ。
その代わりに天国屋敷の「現象」が推理要素となります。

現象を確かめるためにヒゲオとポーチは様々な実験を行います。
そして、現象が明らかになったらメンバーを集め、議論を交わすのです。

推理と言うよりディベートみたいな感じが斬新。犯人を恨む人間がいないからこそ出来ることでしょう。

クライマックス

あまりにも美しく切なく狂っている。

ボーイミーツガールと猟奇殺人の異色なコンビと言うのでしょうか。
青春ジャンルに並んでいても違和感がない終わりでした。

コミカルな展開でも多く、全体的に明るく爽やかなお話です。
事件自体は本当に凄惨なんですけどね。不思議。

まとめ

青春連続殺人事件。
作者の才能には脱帽しかない。

特殊設定ミステリとしても完成度も高い傑作です。

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