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作品情報

作者:阿津川辰海
出版社:講談社タイガ

雑感

まごうことなき傑作。探偵推理小説好きは買っておけ。

事件の様相が目まぐるしく変わり、終盤の怒涛の衝撃に読む手が止まらない。
容疑者が主人公の家族ということで、人間模様の描写も丁寧です。

矛盾というか無理のある展開もありますが、そのすべてが「警察が介入できない」で納得はできる。

なお、前作ではワトソン役だった田所の暴走が鼻につくかもしれない。
必ず紅蓮館の殺人を読んでおくこと。

粗筋

傷心の名探偵に会うため、葛城家を訪れる

紅蓮館の殺人から数カ月。
学校に来なくなった葛城に会うため、田所は青海館を訪れる。

そこには葛城家の面々が集っていたが、過去の葛城の発言で田所は身構えてしまう。
印象通りの家族なのか。それとも仮面家族なのか。

訝しみながらも葛城と再会を果たす田所。しかし、名探偵の面影は消え失せていた。

もう彼は推理をやめたのか。絶望する田所に予想だにしない事件が牙をむく。

迫る洪水と連続殺人事件

激しい雨で帰る手段を失った田所。
水かさは増す一方でやがては館をも飲み込むと思われた。

更にこの機を狙っていたかの如く発生した連続殺人。一同は絶望な状況に追い込まれた。

いったい誰がこんな事件を起こしたのか。
探偵不在のまま事件と洪水の両方が襲い掛かることになった。

トリック・推理

タイムリミットが迫る中、真実の追及に動く

時間制限付きのクローズドサークル。
館が沈む前に真実を明らかにしなければいけない緊張感がありました。

自然災害で証拠がことごとく消えていく前代未聞の推理小説にもなっています。

警察が来れば諸々の矛盾がすぐに明らかになっていたことでしょう。
通常時では難しい殺人を可能とした犯人の狡猾さに舌を巻きます。

不自然に一致団結した葛城家の闇を暴く

この家族は何かを隠蔽しようとしている。
部外者の田所は葛城家の不気味な団結さに戸惑います。

葛城も家族の陰謀に加担しているのか。探偵はもう諦めたのか。

事件を解く中で葛城家の思惑全てを暴くことになるでしょう。

調査はあっさりだが、ヒントは随所にある

葛城は早い段階で真実に気づいており、自信を取り戻してからは一気に解決に動きます。
彼がすることと言えば、最後の詰め程度。

なので、読者と主人公が同じペースで真実に近づくことはありません。

ただ、真実へのヒントは随所に書かれており、後から読み直すと楽しみがありました。
物的証拠はほとんど流されているので、会話の矛盾を突くことが多いです。

些細な言葉に疑問を持つのは探偵ならではの嗅覚ですね。
なお、最後の追い詰めに必要な物的証拠はしっかり押さえているため、完膚なきまでの勝利となります。

葛城の復活を盛り上げる事件としては申し分ありません。

キャラクター

葛城が立ち直るまで悶々する

前作で自信を失った葛城が再起するまでの物語。
再起してからは探偵らしいかっこよさがありますが、そこまでは忍耐が求められます。

なにより葛城に心酔している田所の暴走具合が見ていて辛い。

友人の三谷が冷静に2人を制御してくれるのが救いか。
まあ、クライマックスまでの助走と考えておきましょう。

クライマックス

探偵の答えを見つけた葛城がカッコイイ。これは主人公。

タイムリミットが迫る緊張感、何重にも隠されていた真実。
その衝撃が読者に襲い掛かってきます。

人によっては読めたのだろうか。正直僕はこの展開は全く読めませんでした。

前作と違って気持ちの良い終わり方で読後感は格別です。

まとめ

間違いなく傑作。読んでいて飽きない。
葛城が立ち直るまでは根気がいりますが、そこを乗り越えた時の爽快感は格別です。

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